味覚のお宿 山田屋
有限会社山田屋 代表取締役社長 山田 将司

山田屋は1723(享保8)年、鳥取藩の漁業・物流の要所である賀露の地に暖簾を掲げ、9代にわたり旅館業を営んできた。目の前の港から揚がる新鮮な魚介を使った料理と行き届いたもてなしを誇りに、総勢15人が快適な滞在を支えている。客室は全部で6室、どの部屋からも日本海と鳥取港を見渡せる。
近年は飲食店経営と水産物加工も手がけており、「山田屋ダイニング 路庵かろばんや」は地元の人々にも観光客にも人気の食事処となっている。
本記事では、業務全体の見直しと効率化を通して従業員満足、さらなるサービス向上をめざし、300年の歴史と伝統を次世代へ引き継ぐ山田屋の取り組みを紹介する。
目次
礎である先々代女将のノウハウを継承し、マニュアルを作成して業務のばらつきを解消
旅館に滞在する際、仲居や女将らスタッフの対応は旅の印象を左右するほど重要だ。山田屋も伝統ある旅館としてもてなしに自信を持つが、教本のようなものはなく、新人への指導も、そのつど先輩がまちまちに行っている状況だった。
そこで9代目を継ぐ山田将司氏はRAJCに専門家派遣を依頼し、接客マニュアルの作成に取り組むこととなった。
山田氏:現在、山田屋の接客の在り方は、もうすぐ80歳になる先々代女将の作法が基本となっています。いままで現場で伝えてきましたが、きちんと形にして、次世代へ引き継ぎたいと思いました。
マニュアル作りは、専門家を交えて従業員と山田氏らが先々代女将を囲んで、ノウハウや情報を聞き取る形で進めている。それらを文章化し、さらに写真や動画など目で見てわかりやすい形に仕上げる予定だ。
山田氏:仲居は旅館の顔です。いろんなスタッフがいて個性もさまざまですが、お客さまにとって、サービスに当たり外れがあってはいけません。一定のレベルを維持して「あの旅館はいいな」と評価を保てるようにしたい。

マニュアルを従業員満足度向上、外国人実習生教材、評価材料に
写真や動画マニュアルがあると、誰でも「こうすればいい」とわかりやすい。新人は指導の内容を自分で復習できるため何度も先輩の手を止めて教えを乞う必要が減り、全体の作業時間短縮につながる。また、日本語が充分でない外国人実習生も手本として学びやすい。
山田氏:今回作成するマニュアルを、効率向上と、ひいては従業員満足につなげたい。また、作業チェックリストをスキルマップ的に従業員の評価にも活用したいと思います。
先々代女将の心と知恵が、老舗旅館の未来へ活かされて行く。

飲食店にセルフレジを導入し、希望の支払い方でスムーズに決済。
受注・精算ミスとスタッフの負担を軽減
山田屋が経営する飲食店「山田屋ダイニング 路庵かろばんや」では、今年7月からセルフレジを導入した。
これまでは紙の伝票に手書きだったが、注文の取りこぼしや料金のつけ忘れなど、しばしばミスがあった。
セルフレジシステムでは、スタッフがオーダーを手元のデジタル伝票のボタンを押して受注。プリントされた伝票を客がセルフレジで読み取らせ、支払う流れとなる。
支払い方が多様化するいま、客が好きな方法でスムーズに決済するシステムはスタッフと客双方のストレスを軽減している。
山田氏:受注の際にお客さまのデータも入力するので、年代や性別、時間帯による客層の違いなどの情報も収集できるようになりました。今後、メニュー提供の参考にできますし、仕入れロスの軽減にも役立てたいと思います。

より働きやすい職場づくりを進めて、ESからCS向上へ
旅館業の楽しさを伝え、やりがいある企業に成長
もうすぐ山田屋は、創業300年の大きな節目を迎える。これからの50年、100年に向けて、体制をしっかりと固め直す時期だ。
そのためには、従業員が楽しく働き、質の高いサービス提供の継続が肝要だ。
山田氏:この仕事の魅力は、多くの人と出会えること。直にお客さまと接する仲居は、到着から出発までのお世話をして、心配りひとつで喜んでいただける素敵な職業だと思います。仕事としての魅力を発信しつつ働きやすい職場づくりを進めて、山田屋の歴史にふさわしい格式を守りながら成長していきたいと思います。
時代に合わせながら、連綿と続く歴史の先をどう描くのか。9代目の挑戦が注目される。

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